【越廼村のみなさんにお聞きした-越廼村-ここがポイント】
13 ■水産業の振興
越廼村は江戸時代から漁業と水産加工業で栄えてきた村である。今回、越廼村を訪れてみて、漁業や水産加工業について様々なお話を伺ったが、漁業には農業に負けず劣らず複雑で難しい問題があることが分かった。
まず、越廼村で行われている漁業の種類である。イカ釣りが主な漁業で、ほかに刺し網、定置網もやっている。
イカ釣りの操業区域は、漁船の大きさにもよるが、19トンクラスの船だと北海道から九州まで日本海全域である。技術については全国一と評価されているようだ。
イカ釣りは真夜中にイカ釣り船に電灯を煌々とつけて行う。光に群がるイカの習性を利用した漁法である。夜、越前海岸を走ると、水平線上に点々と灯る漁り火を見ることができる。
刺し網というのは、文字通り、海底に「刺す」網であり、海底近くを泳ぐヒラメなどの魚が取れる。定置網というのは、同じ場所に網を仕掛けて、決まった時間に網を揚げるものだ。今頃だと、ブリ、タイ、アジなどの魚が取れる。
以前は、海を網でぐるりと巻いて魚を獲る巻き網も行っていたそうだが、巻き網は5隻の船で行う経費の嵩む漁法であり、採算が合わなくなったので10年前に廃業したという。
ところで、隣の越前町や三国町ではカニを獲っているのに、越廼村ではカニを獲る底引き網が行われていない。同じ日本海なのに、獲る魚の種類に違いが出るのはなぜかというと、保有している漁船の種類が違うからである。
では、なぜ、漁船の種類が違ってくるかというと、越廼村の海は外海で荒れるうえに越廼村には天然の良港がないため、大型の漁船を持つことができなかったからだそうだ。一方、天然の良港を持つ越前町や三国町では昔から大型の漁船を持つことができたということらしい。
したがって、大型漁船が停泊できる漁港を持つというのは越廼村の漁業関係者の悲願であり、昭和27年以来進められてきた茱崎漁港の整備が今年完了するとのことで、ようやく長年の悲願が達成されることになる。
ところが、ようやく大型漁船が停泊できる漁港ができてみると、その漁港に停める肝心の漁船があまりないという皮肉な現象が起きている。漁獲量が年々減るとともに、漁業に従事する人も漁船の数も減ってきているからである。
具体的には1983年に3,838tあった越廼村の漁獲量が2001年は1,214tと約3分の1に、漁業を営む経営体の数が95から46に、漁船の数が120隻から46隻に約半減している(平成13年2月北陸農政局福井統計事務所「福井県水産累年統計」、平成15年1月「福井県漁業の動き」より)。
では、なぜ、漁獲量が減ったのか。主な原因としては、漁船の大型化・機械化による乱獲が挙げられている。浜で刺し網を手入れしていた漁師の方が、「グラウンドのような広さを網で囲んで一網打尽に取るのだから、無理もない。イカは一年もん(一年で成長する魚のこと)だが、親まで獲ってしまうんだから、獲れなくなるのは当たり前だ」と自嘲気味におっしゃっていた。
一方、越廼漁業協同組合の北ア寿男組合長は、「魚は獲り過ぎで獲れなくなるものではなく、水温の上昇による魚種の変化が大きい」と海の環境変化を挙げる。北ア組合長によれば、過去20年間で海水の温度が3度上昇しており、このため、昔、沿岸で獲れた魚が北上してしまい、暖かい海にいるサワラなどの魚が獲れるようになっているとのことだった。
なお、水温上昇の原因としては、地球的規模の温暖化に加えて、嶺南地域に集中立地している15基の原発から海に捨てられる冷却水の影響が考えられるが、因果関係についての調査は行われていない。しかし、過去140年間の地球温暖化による地球の平均気温の上昇が0.6度前後であることを考えると、原発による影響がないとは言えない。
漁獲量が減った原因について、「海岸をテトラポットで埋めたため、浅瀬がなくなり、魚が産卵できなくなったせいではないか。子供の頃は、産卵で海岸が泡だらけになっていた」とおっしゃる方もいる。護岸工事が生態系を崩して漁獲量を減らす原因になっているのだとしたら、生態系の維持や回復の観点から、護岸工事のあり方を見直す必要もある。
このように、漁獲量が減った原因としては様々なものが考えられるが、排他的経済水域(沿岸より200海里)の導入により、以前のように世界中どこまでも魚を追っていく漁業が展開できなくなったこともあり、乱獲防止の目的も併せて、現在では「資源管理」型漁業が進められている。
「資源管理」型漁業がどんな漁業かというと、漁業者から見ると、「これをしてはいけない」「あれをしてはいけない」という規制だらけの漁業である。具体的には、同じイカを釣るにしても、福井県、石川県、富山県と漁場が異なるごとに許可を取る必要があるし、漁船の種類によっても、「沿岸」か「近海」と漁場を割り当てられる。また、魚の種類によって、予め、その年の漁獲量を決めておいて、その分を獲ってしまえば、後は禁漁にするというTAC制度も導入されている。
また、越廼村では10年前から「中間育成施設」で「つくり育てる」漁業も進められている。具体的には、小浜の水産試験場で卵から孵したヒラメやクルマエビの稚魚を、他の魚の餌食にならないように、越廼村の「中間育成施設」である程度の大きさまで育ててから海に放流している。北ア組合長によると、越廼村で獲れる7割程度が放流魚であり、いまでも、ヒラメが獲れるのは、放流のお蔭であると感謝しているとのことだった。
もともと越廼村は漁業に加えて、水産加工で繁栄した村である。地元で取れるイカ、サバ、スケトウダラの塩蔵品を作っていたのである。ところが、茱崎地区の水産加工場を回って驚いた。
イカはニュージーランド産、サバはノルウェー産、スケトウダラは北海道産である。水産加工場があっても、地元で獲れた魚が扱われていないところに、現在の水産業が置かれている厳しい状況が窺われる。漁獲量の減少と輸入水産物の増大を象徴する水産加工業の現状である。
幸いなことに、ここに一つの希望がある。現在、越廼村の漁業協同組合では、越廼村で獲れるイカを何とかブランド化したいと考え、生きたままのイカを船上で処理する「沖漬けスルメイカ」の作成が進められている。
昨年、作った3000匹の沖漬けスルメイカはすべて売り切れ、今年は注文に生産が追いつかない状態というから頼もしい。僕も見本をもらって食べてみたが、いま獲れたてのように柔らかくて甘く、絶品だった。福井県と言えば「沖漬けスルメイカ」と言われるようなブランド品に育ってほしいものだ。